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人魚の森 

食われながらも絡みあい、
交合を重ねあう哀しいエロティシズム。


人魚の森 (るーみっくわーるどスペシャル)


ハンス・クリスチャン・アンデルセンの「人魚姫」は、恋する薄幸の美女といった印象だが、ヨーロッパの人魚伝説は日本にもたらされたのち、そこに和の伝説や風味が付加され、イメージがほどよく醸成されて全くのべつものに生まれ変わったり、あるいは作家個々の解釈や、ある種のひねりが加わって奇妙な物語となったりしている。

たとえば阿部公房の「人魚伝」。
それは緑色の美形の生き物だが、難破船のなかで人を食っていたというのである。しかも人魚を連れ帰った主人公は、おのれの肉を食われながら再生を繰り返すという奇想の話である。
人肉を食う人魚の口臭まで伝わってきそうな生々しさがある。

高橋留美子の「人魚の森」も不気味であり、また哀しい物語となっている。
第一話が「人魚は笑わない」であるが、人魚の境涯はとても笑えるようなものではない。

人魚の肉を食った人間は、うまく行けば不老不死となるらしい。
だが、多くは死ぬか「なりそこない」といわれる哀れな生き物になるという。
そして人魚はさらに、人魚の肉を食って不老不死となった人間を食うらしい。
人魚はそうして若返るという。

人間と人間が、あるいは人間と人魚が。
時に食い、時に食われ、屠りあいつつ絡みあい、怪しい交合を重ねあうかのような奇妙なエロティシズムが漂っているのである。



「人魚の森」 高橋留美子
1984年- 小学館「増刊少年サンデー」連載
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魔太郎がくる!! 

嗜虐的行為に対する破壊的報復。
呪いの言葉は「ウラミハラサデオクベキカ」。


魔太郎がくる!! (1)

僕が少年の頃は、「首吊りごっこ」なるものがあった。
幸い僕の近辺では事故になることはなかったが、ある地方では死人が出たように記憶している。
ルパード・シェルドレイクの仮説「形態形成場の理論」ではないが、いじめの新しい形態がどこかで生まれると、別の場所でも同じパターンが次々に発生するのかもしれない。
いじめは嗜虐的行為であるという。
真に嗜虐的なものとするためには、相手にとって何が苦痛であるかを考える悪魔的な想像力が必要となるのかもしれない。

「誰がおめえみたいなウラナリのチビと友だちになるもんか」

「魔太郎がくる!!」の浦見魔太郎は中学生だが、メガネを掛けたウラナリ風である。
ウラナリとは、青白く弱々しい人のことで、夏目漱石の「坊ちゃん」に登場する。主人公が赴任先の学校の英語教師に皮肉を込めてつけた渾名である。

魔太郎は、いつも学校で嗜虐的行為、すなわち、いじめの標的にされていた。
顔をボコボコにされたりする肉体的苦痛だけではなく、精神の苦痛も与えられていた。
たとえば好きな女の子の前で、ズボンとパンツを脱がされるという屈辱を受けたりする。
魔太郎は黒い手帳に恨みの言葉を書き付ける。そして黒魔術をもちいて破壊的報復を行う。
「ウラミハラサデオクベキカ」
魔太郎をいじめた生徒は、深夜のビル建築現場に誘われ、パワーショベルで圧死させられた後、穴に埋められ、コンクリートを流し込まれる。

溺死、轢死、墜落死など、いじめに対する報復は派手な力技が多い。
魔太郎の魔術は、次第に嗜虐的になってくる。嗜好性、趣味性が色濃く反映されてくる。
魔太郎は、シュルレアリスムの画家であるルネ・マグリット作「ピレネーの城」を好んだ。この不思議な絵の世界さながらに、巨岩をいじめっ子の頭上に落としたりもする。

魔太郎の家の向かいに、不気味な阿部一家が引っ越してきてから物語の様相は一変する。
一家の中の目つきの悪い赤ん坊である阿部切人(あべきりひと)は、本能的ないじめっ子の性質と邪悪なパワーの持ち主だった。悪魔的な知恵をもちいて魔太郎を陥れる。
さらに満月万太郎という謎の男がやってきて、東京を悪のはびこる暗黒都市にしようと、阿部一家と魔太郎をけしかける。魔太郎の中で、善と悪の心の闘争が始まり、物語はいじめとその報復という枠組みを超えて、スケールの大きなダークファンタジーの世界へと向かう。

人間の中には善と悪が共存している。
善の部分を引き出すためには、究極の悪を見せるのもひとつの方法なのかもしれない。

「魔太郎がくる!!」藤子不二雄
1972-1975年「週刊少年チャンピオン」連載

低俗霊狩り 

低俗な霊を専門に扱う黒装束の女徐霊師。
現世の欲望を死後に残してはならない。


低俗霊狩り (上)

西洋には淫魔というものがいるらしい。
悪魔の一種である。
美男の姿で現れる時はインキュバス、美女の姿で現れる時はサキュバスと呼ばれるが、どちらも実体は同じで、醜い悪魔であるらしい。
淫魔は夢の中に現れて、人間に淫夢を見せ、精を吸い取り、堕落させるといわれる。
インキュバスの方は、女性を孕ませることもできるらしい。

奥瀬サキ「低俗霊狩り」の低俗霊とは、性的な欲望を持つ霊のことである。現世に未練を残して死んだ人間の霊が悪さをする。
女徐霊師の流香魔魅(りゅうかまみ)は、人の依頼を受けてこれらの低俗霊を狩るハンターである。

流香は黒装束の異能力者ではあるが、若い女なので、時に低俗霊や人間の男によって性的な餌食にされる。
訳の分からない依頼者に、いきなり一物を突き出されたりもするし、成り行きでビデオに出演させられたりもする。流香はたいてい無防備で、嫌がっているのか、恥ずかしがっているのか、感じているのか、いまいち掴みにくいキャラクターである。

電車の車両に取り憑いた少年霊の話、「ファントム・オブ・ザ・レールウェイ」が面白い。
虐められ、轢死した少年の霊に、人間のような知覚や意識はない。
あるのは思春期の強い性的欲求と、社会への恨みの残像、あるいは怨念のようなものだけである。

怨念は、乗客や機械に取り憑いて暴れ回る。
悪いことに、乗客の中に酔った関取がいた。関取は地獄のオーラのようなものを纏って流香に襲いかかってくる。
空手家の男女ふたりの高校生も闘いに加わって、猛スピードで走る電車の中で、でたらめなバトルが始まる。
車両の中に、突如レールが現れ、警笛が鳴り響き、別の電車が突っ込んでくる。
もう、訳の分からないシュルレアリスムの世界である。

生きているうちに、やれることはすべてやっていた方がいい。
未練を残して死ぬと、ずっと苦しいだけである。

「低俗霊狩り」奥瀬サキ
1986年~ 白泉社「コミコミ」連載
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